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THE BROAD : 現代アートに浸って



MOCA (ロサンゼルス現代美術館) に行った日、それで帰る予定が、日頃長蛇の列で入場をあきらめていたザ・ブロード (THE BROAD) が、珍らしく並ばずにすんなりと入れそうだったので、迷わず行くことにした。


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グランド・アベニュー(Grand Avenue)


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ウォルト・ディズニー・コンサートホール(Walt Disney Concert Hall)



この辺りは著名建築家による建築群が目を引く一帯で、"MOCA"の磯崎新、"ウォルト・ディズニー・コンサートホール"のフランク・ゲーリー、そして"ザ・ブロード(THE BROAD)"の建築デザインは、ディラー・スコフィディオ+レンフロ (DILLER SCOFIDIO + RENFRO)エリザベス・ディラー(Elizabeth Diller) によるものだ。
蜂の巣のようなメッシュ状のファサードが美術館を覆っていて、6角形の一辺のファサードの長さが不規則な個性的な建築になっていて面白い。



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ザ・ブロード(THE BROAD)


2015年の9月20日にオープンした話題の現代美術館で、イーライ&エディス・ブロード (Eli and Edythe Broad)夫妻の個人美術館である。
不動産で財を成したその資金をもとに、約50年近く集めたそのコレクションの数は、200名以上のアーティストの作品で2000点を超えるという。
常設展は、太っ腹なことに入場無料なのだが、入場するまで常に長蛇の列となり、オンライン予約が必須な状況はずっと続いている。
というわけで、たまたま入場できたのはラッキーだったのだ。



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洞窟を思わせるような長いエスカレーターで3階へと進むと、あっと驚く宝の山が待ち受けていた。



◾️アンディ・ウォーホル
(Andy Warhol, 1928年8月6日 - 1987年2月22日)
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Single Elvis [Ferus Type]
Andy Warhol
1963
silkscreen ink and spray paint on linen
103 1/2 x 49 1/4 in. (262.89 x 125.1 cm)


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(上) Two Marilyns
Andy Warhol
1962
acrylic, silkscreen ink, and pencil on linen
20 1/8 x 27 in. (51.12 x 68.58 cm)

(下左) Campbell's Soup Can (Clam Chowder - Manhattan Style) [Ferus Type]
Andy Warhol
1962
casein and pencil on linen
20 x 16 in. (50.8 x 40.6 cm)

(下右) Small Torn Campbell's Soup Can (Pepper Pot)
Andy Warhol
1962
casein, gold paint, and graphite on linen
20 x 16 in. (50.8 x 40.6 cm)




◾️ロイ・リキテンスタイン
(Roy Lichtenstein, 1923年10月27日 - 1997年9月29日)

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(左) I...I'm Sorry!
Roy Lichtenstein
1965-66
oil and Magna on canvas
60 x 48 in. (152.4 x 121.92 cm)

(右) Live Ammo (Blang)
Roy Lichtenstein
1962
oil and Magna on canvas
68 x 80 in. (172.72 x 203.2 cm)



ポップアート界の2大アイコンともいえるウォーホルとリキテンスタイン。

ウォーホルの作品が、世界のセレブリティをモチーフにしたシルクスクリーンで、大衆文化の光と影を浮き彫らせたことに対して、リキテンスタインは、漫画の印刷のドット(網点)を丹念に書き込み、大衆文化に溶け込んでいるモノ自体の側面を強調することにより注目を集めた。
じつは自分の子供に「パパはこんなに上手く絵が描けない」とマンガを指さして言われたことから、本格的に取り組み始めたのがきっかけらしい〜☆





◾️テリー・ウィンタース
(Terry Winters 1949年 - )

ニューヨークで生まれたテリー・ウィンタースは、植物の細胞、胞子、種子などをイメージとしたものをはじめ、科学、数学的な分野からも様々なインスピレーションを得ながら生み出した概念を、線やドットに置き換えた抽象的な作品を現在も制作している。


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◾️チャック・クロース
(1940年7月5日-)

1960年代中頃からアメリカを中心に現われたムーブメント、スーパーリアリズム (Superrealism) の巨匠として写真のように絵を描く作家で、とくに巨大なポートレートが有名である。
写真をグリッドに分割したうえで色彩の組成を組み替えて描くなど、様々な技法を生み出し、特にエアーブラシを使用した技術は、インクジェットプリンターの開発のヒントになったくらいである。

スーパーリアリズムは、写真をモチーフに、より無機的にリアルに浮き彫りにしていくイメージであり、現実を虚構として醒めた目で見つめるポップアートや、没個性主義を深めたミニマリズムなど同時代の動向と理念の根本を共有したもので、例えば現代マドリッド・リアリズムなどに代表される、感情を移入して到達させていくような絵画の流れとは真逆の方向に進んだものであるといえよう。




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John
Chuck Close
1971-72
acrylic on gessoed canvas
100 x 90 in. (254 x 228.6 cm)




◾️サイ・トゥオンブリー
(Cy Twombly、1928年4月25日 - 2011年7月5日)
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Nini's Painting [Rome]
Cy Twombly
1971
oil based house paint, wax crayon, and lead pencil on canvas
102 3/4 x 118 1/4 in. (260.99 x 300.36 cm)



アメリカ抽象表現主義の第2世代とも言われる作家だが、独自の境地を切り開いた。

かつて(30年以上前) 私は 新宿にある美術予備校にいたとき、デッサンの授業で担任の講師からこのトゥオンブリーの絵を参考にしろと言われて、困惑していた時期がある。
一見、素人目には子供の落書きのように見えるその線が、決定的にそれとは違うわけは何か。
ある種の結論として、目で追って視角で描こうとして描いたもの、すなわち目が脳に指令して手を通じて具現化したものは、この絵のようにはならないということだ。
事実、トゥオンブリーは、制作にあたって、目で見ることよりも腕を動くままに動かすというような、目の専制を逃れることを意識的に行っていたという。
というわけで、何故この絵を参考にしろと言われたのかは、未だにわかっていない。





◾️ヨーゼフ・ボイス
(Joseph Beuys、1921年5月12日-1986年1月23日)
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(上) DIFESA DELLA NATURA
Joseph Beuys
1982
lettering on heavy cloth
41 3/8 x 153 1/2 in. (105.09 x 389.89 cm)

(下) Schlitten
Joseph Beuys
1969
wooden sled, felt, belts, flashlight, fat and rope; sled stamped with oil paint (Browncross)
13 3/4 x 35 3/8 x 13 3/4 in. (34.93 x 89.85 x 34.93 cm)



引き続き、新宿の某美術予備校時代に世話になった講師が崇拝していた作家で、私が現代アートにのめり込んでいった頃、多大な影響を受けた人。

まず、ボイスの作品の根底にあるのは戦争体験である。
石や金属、木材といった無機物をはじめ、兎、コヨーテ、フェルト、蜜蝋、脂肪など、これまで美術作品とは無縁だった独特なマテリアルで作られているのが特徴的だが、それらのいくつかは、実際に生死をさまよった戦時中のクリミアの体験からきたものだと自ら語っている。
素材は、ボイスのテーマである「死と再生」に関わる理論のツールとして提示され、作品の重要な核となっているのだ。

ボイスは、ルドルフ・シュタイナーの影響を受けた独自の理論を持ち、デュッセルドルフ芸術アカデミーの教授であり、前衛芸術運動「フルクサス」のメンバーでもあった。

また、生涯にわたって、芸術、思想、哲学と幅広い活動をしてきた人間であるが、特に彫刻や芸術の概念を「教育」や「社会変革」にまで拡張した人である。
「社会彫刻」という名のもと、”この世界をいかに形成し、現実のものに作り変えていくか、進化していく過程そのものが彫刻であり、それを行うすべての人は芸術家である”という言葉を発し、社会と芸術との関わりをイコールとした概念を定義した。
『緑の党』結党などにも関与し、アーティストでありながら稀有な政治活動家でもあった。

...ちょっとボイスは簡単には語れないので、そのうち特集でもやろうかな。




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ohne die Rose tun wir's nicht
Joseph Beuys
1972
color offset on cardstock, with handwritten text
31 1/2 x 22 in. (80.01 x 55.88 cm)




◾️アンゼルム・キーファー
Anselm Kiefer、1945年3月8日 - )
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Deutschlands Geisteshelden
Anselm Kiefer
1973
oil and charcoal on burlap mounted on canvas
120 1/2 x 267 3/4 in. (306.1 x 680.1 cm)


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Am Rhein
Anselm Kiefer
1968-91
photograph on treated lead in a glazed steel frame
95 1/8 x 51 15/16 in. (241.62 x 131.92 cm)



私が最も敬愛するドイツの巨人、アンゼルム・キーファー。

キーファーは現代美術家の中でも作品における「主題」「意味」を特に重視する人で、新象徴主義や新表現主義ムーブメントの両方を代表する作家に位置づけらている。
思想性を重視するキーファーの作品は、人間の本質、根源的なものについて、考えることを見るものに突きつけていく。

戦後ドイツが封印した負の歴史を主題としたものを皮切りに、ヨーゼフ・ボイスの影響を受けつつ、藁、灰、粘土、鉛、シェラック、ガラスなど、テーマに応じて様々な素材をコラージュした巨大な作品が多い。
時代とともにその主題は変化していって、ドイツ神話からカバラ思想、1970年代から1980年代初頭にかけては、ヒャルト・ワーグナーの4部オペラ『ニーベルングの指環』をテーマにした膨大な数の絵画を制作。
また、鉛や観光乳剤を用いて、写真と絵画の融合など優れた作品を生みだした。
その後、さらに幅広く芸術や文化の宿命のようなものに広がっていき、オカルト、シンボリズム、進学、神秘主義などの要素を作品に取り入れた。
絵画、彫刻、インスタレーションと、今もなお、知的で壮大なテーマのもと創作活動はつきない。

今回、このキーファーの作品を見ることができたのは、本当に嬉しい限りだ。





◾️キース・ヘリング
(Keith Haring、1958年5月4日 - 1990年2月16日)
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Red Room
Keith Haring
1988
acrylic on canvas
96 x 179 in. (243.8 x 454.7 cm)



ストリートアートの先駆者でもある80年代アメリカの代表的な画家。

キース・ヘリングといえば、まず頭に浮かぶのが、「ギャルリーワタリ」の1983年開催の個展と向かいの「オン・サンデーズ」にての滞在制作である。
はっきり言って当時の私には彼の絵の良さが今ひとつ解らなかったのだが、新しい風が吹いてきたかのような時代の空気は、しっかりと感じた記憶がある。
懐かしいな〜☆

1990年にエイズの合併症により、31歳の若さでこの世を去った。





◾️ジャン=ミシェル・バスキア
(Jean-Michel Basquiat、1960年12月22日 - 1988年8月12日)
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(左) Untitled
Jean‐Michel Basquiat
1981
acrylic and oilstick on canvas
81 x 69 1/4 in. (205.74 x 175.9 cm)

(右) Eyes and Eggs
Jean‐Michel Basquiat
1983
acrylic, oilstick and paper collage on cotton drop cloth with metal hinges
119 x 97 in. (302.3 x 246.4 cm)



ニューヨークのブルックリンで生まれた、グラフィティ、プリミティヴィズム、ニューペインティングの作家で、そのアイコンともいえる存在でもある。
天才ともいえる圧倒的な独自性があり、アンディ・ウォーホルとも親交が深く、時代の寵児だったが、ヘロインのオーバードーズにより1988年、 27歳で死去した。
あまりに早すぎる死であった。

私が最初にバスキアの作品を知ったのは、キース・ヘリングの作品と同じく、「オン・サンデーズ」で売っていたポストカードであった。
かなり衝撃的だったのを今でも覚えている。



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Obnoxious Liberals
Jean‐Michel Basquiat
1982
acrylic, oilstick, and spray paint on canvas
68 x 102 in. (172.72 x 259.08 cm)




◾️グレン・ライゴン
(Glenn Ligon, 1960年 - )

ニューヨーク・ブロンクス出身のコンセプチュアル・アーティスト。
現代アメリカ社会の表と裏を描写し、人種、言語、アイデンティティーを問う作品が多い。




Double America 2
Glenn Ligon
2014
neon and paint
48 x 145 x 3 in. (121.9 x 368.3 x 7.6 cm)
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◾️シェリー・レヴィーン
(Sherrie Levine、1947年 - )

1980年代のニューヨークを中心に広まった美術運動、シミュレーショニズム(simulationism)の作家である。
シミュレーショニズムとはモダニズム(近代芸術)の唯一性を否定し、誰もが知っている名画や写真などの既存のイメージを、カットアップ、サンプリング、リミックスといった手法を用いて「盗用」を意味するアプロプリエーショ(appropriation)することを特徴としたポストモダニズムで、大量消費文化の中で、オリジナルよりもコピーとしての複製品に、より強い現実感を求める社会的な動向をとらえて誕生した考え方である。
シェリー・レヴィーンは、有名な写真作品を複写したことで有名な作家。




Fountain (Buddha)
Sherrie Levine
1996
cast bronze
12 x 15 7/8 x 18 in. (30.48 x 40.32 x 45.72 cm)


これって、デュシャンの"泉"をアプロプリエーショした作品だよねーて言うか、こうなると、なんでもありだな。




◾️ロバート・テリン
(Robert Therrien、1947年11月17日- )

シカゴ出身でロサンゼルス在住のアーティスト。
1993年から始めている巨大な家具シリーズは、アリス・ワンダーランドに入り込んだような錯覚を覚える。



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Under the Table
Robert Therrien
1994
wood, metal and enamel
117 x 312 x 216 in. (297.2 x 792.5 x 548.6 cm)



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◾️ロバート・ロンゴ
(Robert Longo、1953年1月7日 - )

ニューヨーク ブルックリン出身の作家。
ファショナブルな男女の不自然な身体表現を描いたシリーズ、「メン・イン・ザ・シティーズ」はプロジェクターで写真を写し、木炭やグラファイトで描いている。
1986年、表参道のスパイラルで個展を開いたくらいに日本でも人気があった。




Untitled (Men in the Cities: Ellen)
Robert Longo
1981
charcoal and graphite on paper
95 1/2 x 59 1/2 in. (242.57 x 151.13 cm)




◾️ジェフ・クーンズ
(Jeff Koons, 1955年1月21日 - )
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(上) Buster Keaton
Jeff Koons
1988
polychromed wood
65 3/4 x 50 x 26 1/2 in. (167.01 x 127 x 67.31 cm)


(下) Jim Beam - J.B. Turner Train
Jeff Koons
1986
stainless steel, bourbon
11 x 114 x 6 1/2 in. (27.94 x 289.56 x 16.51 cm)



ペンシルヴァニア州出身のアーティスト、ジェフ・クーンズは、マルセル・デュシャンの流れを継ぐ者として戦後世代では最も影響力のあるひとりである。
1985年に「ネオ・ジオメトリック・コンセプチュアルアート」というグループ展を開催し、その中心人物であったが、この展覧会から「ネオ・ジオ」という流れが生まれ、シミュレーショニズム(simulationism)へと繋がっていく。
クーンズは"King of kitsch”の別名があるように、大衆文化の中のイメージを再構成するキッチュ(低俗、悪趣味、陳腐に類似性がある言葉)と呼ばれる美意識を派手に強調した作品を数多く制作した作家である。
それは、洗練やシンプルという言葉とは別の価値観で表現されていて、美しいもの=芸術ではないことを見る人に訴えかけているかのように感じる。



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Michael Jackson and Bubbles
Jeff Koons
1988
porcelain
42 x 70 1/2 x 32 1/2 in. (106.68 x 179.07 x 82.55 cm)



彼の妻だった、チチョリーナとの性行為をモチーフとした作品群は、当時センセーショナルな話題となったのを鮮烈に記憶している。
また今回展示されていたマイケル・ジャクソンと愛猿バブルスの彫刻も彼の代表的な作品。

当時、BT(美術手帖)で特集していたが、思えばあの頃は毎月購読していた。
うん、懐かしいもんだな。





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企画展で ジャスパー・ジョーンズやっていたが、閉館間近だったので、また次回。(次回あるかな...)




The Broad

5905 Wilshire Blvd
Los Angeles, CA 90036
213-232-6200
https://www.thebroad.org/




使用カメラ
ボディ : SONY α7Ⅱ(ILCE-7M2)
レンズ : FE 24-70mm F2.8 (GM SEL2470GM)





by TERAN3_3 | 2018-04-16 02:30 | art | Trackback